ラスト・ファイト・ヒロイン

ラウンド1

「K.O.!」
 ああ、また負けた…。
 俺の名前は後藤 卓巳。
 俺が最近このゲームセンター「ジョイパーク」に来ては やっているのは「カオス・ブレイカー」と言うタイトルの格闘ゲーム。 異世界を舞台にしたこの格ゲーが最近のマイブームだ。 このゲーセンに来てはいつも500円ばかりをつぎ込む。 しかしいつも4,5人目で負ける。別にこのゲームの難易度が高いわけではない。
 ただ、俺の腕がヘボいだけ。
 …正直言うと、これは格ゲーに限った事ではない。 パズルゲーも、シューティングも、アクションも、あと、プライス系(UFOキャッチャーなどの機種)も、 どれも下手クソだ。まあ、でも、ゲーム、特に格ゲーは好きだから良いのだ。 下手の横好きといったところか…。
「や、こんばんは」
「あ、店長。」
 この店の店長が声を掛けてきた。一人暮しの学生の身分を良い事に俺は夜、この店に入り浸っている。 そんなわけで店長とは顔見知りになった。
「今日も惨敗かい?ふふ、毎度、どうも。」
 俺の腕の方もよく知られている。
「ああ、そうそう、今日はそろそろ閉店だから、また明日来てね。」
「え、もう?まだ早いんじゃない?」
「うん…でも、もう、君だけなんだ、お客さん。だから今日はもう閉店。」
 そういえば、最近店の中で他の客をあまり見ない。
店員も店長の他には1人か2人しかいないような…。
「分かった。それじゃ、また明日。」
 そう言って俺は家に帰った。

 そんなある日のことだった。
 その日は客もそれなりに来ていて早くに閉まることはなく、俺も最後までゲームをしていられた。
 本来この店は深夜一時が閉店時間だ。この時間ともなると腹が減る。そばのコンビニによることにした。
 30分ほどしてコンビニを出ると、あたりはもう真っ暗だ。
 夜なので暗いのは当然だが、30分前まではゲーセンのネオンで明るかった。
 このコンビニの前は大通りなのだが繁華街ではないのでこの辺りで(コンビニを除いて) 一番営業時間の長いジョイパークが閉まるとこの辺は一気に暗くなる。 最近はこんな光景を見ると寂しくもなってくる。
 家に帰ろうとゲーセンの横を通ったとき、店の前に人がいるのに気付いた。 それも一人や二人ではない。10人、いや20人近くはいる。
 どうしたのかと近づいてみた。
 遠くからでは暗がりで分からなかったのだが、近づくにつれ彼らが普通の格好でない事に気付いた。 彼らは皆、ゲーセンで見るゲームの登場キャラの格好だったのだ。
 これからイベントにでも行くコスプレさん?と思った。それにしても、顔までそっくりとは…。
「顔?!」
 思わず声が出てしまった。顔までそっくりなんていくらコスプレでもそこまでしない、 と言うか出来ないだろう。
 俺の声に気付いた謎の集団がこっちを向いた。
「あ…、こんばんは…。」
「あんた…、俺たちが見えるのか?」
 大柄な男が聞いてきた。なんだか妙な会話になってきた。
「??え、ええ…。あの、皆さんは一体…?」
「俺たちはここのゲーセンで世話になってるゲームに居る者だ。…っていっても信じられるか?」
 …「あなたは神を信じますか?」いきなりそんな事を聞かれた気分だ。 いや、本人が目の前で自分の存在を信じるかと聞いているので違うか。…って、本人…
「っええええぇぇ?!」
 ちょっと考えて、彼らがとんでもない事を言っている事に思い当たった。 つまり彼らはここのゲーセンにあるゲームの登場キャラだという事になる。 そんなバカな事が…。などと思っていると…。
「あれ?あんた!」
 一人の女の子が声をあげ近づいてきた。
「やっぱり!あんた、いつもあたし使って、ボロクソに負けてる彼じゃん。」
 お、俺がこんな少女をつ、使う?!…と思ったが、良く見ると彼女、どこかで見たような…。
 そうだ。最近やってるカオスブレイカーのマイキャラ、ミリーだ。
「おお、そう言えば!いつもミリー使ってる割にはヘタクソな奴がいたが、そこの少年じゃないか!」
 彼も確か、カオスブレイカーの登場キャラだ。
 俺の、それも下手な(さっきからその事を連発されちょっと傷ついた)プレイを見ている奴なんて誰もいない。 店長ですら俺のマイキャラは知らない。
 あちこちで「そう言えば…」「ああ、そうだ。」などと声が上がる。 よく見ると彼らは皆、よく来るこのゲーセンにある、一度は、いや、 何度も遊んだ事のあるゲームのキャラたちだ。 さすがにシューティングの戦闘機はいなかったが。
「どうだろう、少しは信じてもらえただろうか?」
 最初に声をかけてきた大柄な男が再び聞いてきた。彼も見た事があるようなのだがなぜか思い出せない。
 にわかには信じがたいが、これが夢でないなら現実だ。
「なんとなくだけど、信じられる気がするよ。」
「それだけで十分だ。」
 そう言って彼は笑った。

つづく

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