ラスト・ファイト・ヒロイン

ラウンド2

 あの日以来、ジョイパークに行く楽しみが増えた。
ゲーム機にはそのゲームのキャラがいて、手を振ったりしてくれる。 そのゲームをすれば彼らは観戦したり、アドバイスをしてくれたり、 下手な俺のプレイに笑いながら冷やかしをしたりもする。 そのゲームのキャラ達と本当に一緒に楽しんでいた。
「そんな風に姿を見せていても大丈夫なのか?」
 いつものようにカオスブレイカーをプレイしているある日、そばにいたミリーに聞いてみた。
 格ゲーのように登場キャラの多いゲームだと全員がいる訳ではないようで、交代で出て来たりする。 シューティングの戦闘機はやっぱり出てこなかった。
「あんたと初めて会ったとき、クラウスが聞いたでしょ。『俺たちが見えるのか』って。 誰にでもあたしたちの姿が見えるってわけじゃないのよ。だから大丈夫なの。
 …あっ、ほら!そこでガーキャンからコンボにつなげて…!ほらね、やったあ!」
 彼女のアドバイスのおかげで5人目にも勝つ事が出来た。 画面のミリーが勝ちポーズを取ると目の前のミリーもポーズをとったるする。
 それにしても、画面にもいるし、目の前にも同じ奴がいるとなんか変な気分だ。
「あ〜あ、やられたゼ。」
 さっきの対戦相手だった東城 進という、異世界なのに日本人のような名前と姿のキャラがミリーの横に出てきた。
「よ、お前さん、ずいぶん強くなったじゃねーか。これもミリーのアドバイスのおかげか?んん?」
「もう、バカな事言ってんじゃないの。あんたが弱くなったんじゃない?」
「な?!なにを〜!!おまえこそ…」
 ミリーと進が言い合いを始めてしまった。
 でも実際、俺の腕が上がったとすればそれは、 ミリーのアドバイスのおかげ…いや、正直に言うとミリーのおかげかも。
「おう、そういやぁよう、おまえさん、なんでミリーなんて上級者向けのキャラつかってるんだ?」
「そりゃもちろん、このあたしの天才的な格闘センスと、美しすぎるこの美貌に引かれたからよね〜」
「おいおい、テメエ、鏡で自分の姿見た事ねえのか?」
「なんですって〜!!」
 再び言い合いに突入してしまった。 ちなみに俺はこのとき戦いの方に気が向いていて答えられるはずがなかった。
「ねえ、ちょっと、あんたもこの馬鹿に一言言ってやりなさいよ。」
 いやだから無理なんだって…あ!
「あら、また負けちゃった…。」
「こら2人とも、邪魔をしてはいかんだろ。」
 今の対戦の相手だったレオンという名の騎士のような男が現れた。
「すまぬな、邪魔をして…。ほら2人ともそろそろ戻るぞ。」
「は〜い。…じゃ、またね。」
「ほんじゃな。」
 3人が消えると代わって、店長がやってきた。
「やあ、ずいぶん腕を上げたじゃないか。」
「いやまあ。でも、まだまだですよ。」
「あ、悪いけど…、今日もちょっと早めに終わらせてもらうよ。」
 今日も早く閉まったのは客の入りが少なかったから。 立ち寄ったコンビニを出るともう辺りは真っ暗だった。 まだ12時になっていない。なのにもう真っ暗になるなんて。
 そう言えば、あの大柄の男キャラはクラウスという名前だとミリーが言っていた。 クラウス、そしてあの姿。見たこと聞いた事は有るんだが、思い出せない。 いつ、どんなゲームにいたキャラだったのか。
 でも、クラウスのことよりミリーのほうが気になる。
 俺が彼女を使う理由。それは、その…彼女に惚れたから。
 はじめてあのゲームで彼女を見たときから彼女以外は使っていない。 下手な腕なりにも、上級者向けのキャラであそこまで強くなれた。 それはやっぱり彼女のおかげ。ゲームキャラに惚れるなんて本当に変な話だが、事実なのだ。 つい先日までは画面で見るだけだったのが、今は目の前にいる。 やっぱり現実の存在ではないのだが、でも、実際に目の前にいる彼女を見るとそんな事をつい忘れてしまう。

 そんなある日、いつもの様にゲーセンに行くと隅のほうにかなり古めの機体があるのに気付いた。 いつも来ている俺が隅にあるとは言え、今までその機体に気付かなかったなんて。 なんのゲームか気になった俺はやってみる事にした。
 ゲームは「グランド・ファイターズ」。もう、7,8年前の格闘ゲームだった。 たしかこのゲームが格闘ブームの火付け役になったゲームだ。 しかし、次々と斬新なシステムを持つ他メーカーの新作に押され、 このゲームは続編を2,3作出したのみで業界やゲームファンから忘れ去られてしまった。 今も根強いファンはいるようだが、まさかこんなところで見掛けることになろうとは。
 かく言う俺もブームに乗って、一度プレイしたことがあった。しかし…
「あっさり負けてしまったんだよな、一人目で。」
 俺の横にクラウスが立っていた。
 そう、やっと思い出した。このゲームだったんだ、クラウスが出てくるのは。
 大した腕でもなく、あのときあっさり負けた俺はしばらく格ゲーを避けていた。 でもやっぱりゲームが好きな俺はまた格ゲーを始める事となる。 ただ、このゲームだけは避けていた。このゲームは他に比べるとややハードなゲームだった。 だから、またすぐに負けてしまいそうで嫌だったから。 他のゲームならそれなりに進めても、このゲームだと、一人も勝てなくて終わってしまうのが嫌だったから。 今考えるとあまりに情けない話だが、俺がそんなところで負けたと言う事が悔しかった。
「たった一回にプレイだったがそのとき使ったのが俺だったんだよな。」
 そう、だからこのゲームのキャラはぜんぜん知らないけど、彼のことだけはうっすらと憶えていたのだ。
「K.O.!」
 今はもうあのときのような避けようとする感じはない。負けてはしまったが、4人目まで進む事が出来た。
「大分うまくなったな。あのときとは大違いだ。」
 クラウスが誉めてくれた。
「そりゃそうさ。あのときよりうまくなってなきゃ。それに今はみんながアドバイスしてくれる。」
「そうだな、あのときと比べて済まなかったな。」
 
 その日以来、俺は、このグランドファイターズもプレイするようになった。
「やあ、ずいぶん懐かしいゲームをするねえ。」
店長だ。
「うん、やっぱこのゲームもやらないとね。」
「でも負けてるね。」
「はは、いいの。でも、このゲームを置いてる店長もこのゲーム好きなんでしょ?」
「そりゃもちろん。結構思い入れもあるしね。このゲームのおかげで今の僕があるようなもんだからね。」
 笑いながら店長は仕事に戻っていった。店長はやっぱゲームの腕なんか凄いのだろうか。あんまりそんな人そうには見えないけど。
「店長サン?さあ、見たことないよ、あたしは。」
 いつもの様にカオスブレイカーをプレイしながら俺はいつもの様に横にいたミリーに店長の腕前を聞いてみたが、どうやら知らない様だ。
「あ、そうそう、前から聞こうと思ってたんだけど。」
 前々から気になってたけどつい忘れてしまっていたあの疑問を聞くことにした。
「俺達が初めて会ったときみんなで何をしてたんだ?」
「うん、あの時ね。ほら、このお店、ずいぶんと客が来なくなっちゃったでしょ?その事話してたの。」
 そう、以前からそうなのだが、この店は客が少ない。その理由はなんとなく分かった。
 「サン・アミューズメントパーク」。去年市内にオープンした大手ゲームメーカーのゲームセンターだ。 ジョイパークの倍近くある敷地と、機体などにより、客は一気に向こうへ流れた。
「もしこのままこのお店が閉まるような事になったら、あたし達どうなっちゃうのかなって…」
 遊ぶ人がいなくてはゲーム機など無用の物。ここが閉まるような事になると、俺にとっても寂しい。
「向こうの機体でも会えないことはないだろ?」
「そんな事無いわよ。あたしたちだって、気に入ったところでしか出てこないし、 あんなに人が大勢いるところは好きじゃないの。」
「でも、お前達の姿って誰にでも見える訳じゃないんだったよな?なら大丈夫なんじゃない?」
「そうでもないのよ。まあ、ちょっとわかんないかな?」
「静かな環境が好きって事で納得すりゃ良いのか?」
「そんなとこね。」
…良く分からん。

 確かにこのお店の客は減ってきている。店長もそれがわかっているから店を早くに閉めてしまう。 そして、利益の無い商売などやっていけるはずが無い。 このまま、あのお店はなくなってしまうのだろうか…?

つづく

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