ラスト・ファイト・ヒロイン
ラウンド3
その日は店長に話を聞こうと思って少し早めに店に来た。
早い時間のせいか普段来る時間よりさらに客は少なく、閑散とした感じがある。
そんな中、奥の方で誰かがゲームをしている音がした。見ると店長だ。
やっているのは…グランドファイターズだ。初めて見た店長の腕はかなりの物だ。
「あれ、見てたのかい?」
クリアーし終えた店長がこっちを見た。
「え?あ、上手いんですね、店長。」
「うん、まあね。」
「そりゃそうよ。」
いきなり横手から声がかかった。そっちを向くと、そこに立っていたのは確か…。
「あなたとお話するのは初めてね。クラウスとは何度か話していたみたいだけど。」
そう言ったのは確かグランドファイターズのキャラ、カナンだ。
「やあ、カナン。ああ、そう言う事になるね。」
そう言ったのは…店長?!え?って事は?
「うん、そう。僕もね、皆が見えて、そして皆と話をしたりしているんだよ。」
「あれ?あんた、知らなかったんだ?」
今度はミリーだ。
「うん、知らなかった。でもまあ、教えてもらわなくちゃいけないって事でもないからいいけど。」
「さて、僕はそろそろ仕事に戻るよ。」
そうだ、店長に聞かなきゃ行けない事があったんだ。
「待って、店長。」
「ん?どうしたの?」
「あ、あのさ…。ほら、この店今あんまりお客さんとかいないでしょ?
だから、この店閉めちゃうんじゃないかって思って…。どうなの?この店…閉めちゃうの?」
気が付くと周りにたくさんのゲームキャラたちが集まっていた。
店長が僕のそばに戻ってきた。
「大丈夫、絶対にこの店は閉めないし、ゲーム達もこのまま置いておくよ。
君みたいに、ゲームキャラでも大事に思ってくれる、
ゲームの好きな人のいる限り僕はこの店を絶対に閉めないよ。」
「でも…」
「僕がそして君がなぜ皆と実際に会って話が出来るか分かるかい?」
「いいや、分からない。」
「それはね、ゲームをとっても大切にしてくれるからよ。」
ミリーが店長の代わりに答えた。
「あなた達みたいにゲームが大好きで、大切にしてくれる人にしか私達は見えないのよ。」
そうか、店長もゲームが好きなんだ。そして俺も。
「あたし達はあんたや、店長サンみたいな人がいてくれる限り、ずっといっしょ、
出てこなくなったりなんて絶対に無いわよ。店長サンもちゃんと約束してくれたしね。」
ミリーが俺の肩ポンッと叩いて言った。
「それに、僕としても、この店は気に入っているからね。
こうして、みんながいて、君のようなゲームを好きでいる人が来るこの店がね。」
そう、店長も、そしてもちろん俺もゲームが好きだ。だから店長はこの店をやっている。
そして、ミリー達も出てきてくれる。
俺だけが勝手に心配してただけか。
あれ?
「それじゃ、あの時皆で話をしていたのは、なにを話していたの?」
「え?」
この事は店長も知らなかったらしく声を上げた。
「だから言ったじゃない、このお店の事話してたんだって。」
「でも、このお店が無くならないって知ってたのなら別に心配しなくてもいいんじゃない?」
「あら、失礼ね。あたし達だって、居候先の心配位するわよ。
うん、えっと、あの時はね、どうしたらもっと客が来るかなってことを話してたのよ。」
ミリーが照れながら言った。
「そうだったのか…。参ったな、君達にまで心配かけちゃって…。」
店長も照れながら言った。
「あら、当然の事よ。」
さっきのカナンが言った。
「これは、何とかこの店を立て直さないと皆に申し訳が立たないな。」
「そうだよ、がんばってよ。」
俺も店長を応援する。この店のために手伝える事があるならやろうと思う。
俺だけじゃない。皆が店長を応援していた。
あれから店は繁盛している…と言いたいところだが、決してそうとは言えないようだ。
でも客が減るような事は無い様だし、逆に少しではあるが客が増えてきた様に思う。
店長も最近広告を出したりと結構忙しい様であまり俺と話をしている暇は無いようだ。
「やっほ、今日も来てるね。偉い偉い。」
いつもの様にこの店に来て、いつもの様にカオスブレイカーをして、ミリーと話をして…。
そう、いつもの光景だ。
「ん?どったの、ぼーっとして?」
ミリーがそんな事を考えていた俺の顔を覗き込んでくる。
「はは〜ん、さては私に惚れてるな?え?」
そう、俺は彼女が好きだ。だからこうしてよくここにやって来る。そんな日常も俺は好きだ。
「ちょっと、なによ。またぼーっとしちゃって。」
ミリーが抗議の声を上げた。
「もう、失礼しちゃうわね、こんな美少女がそばにいるのにぼーっとしちゃってさ。」
「うん、ミリーがあまりにかわいいから見とれてた。」
半分はからかうつもりで言った言葉だけど、もう半分は…。
「え?ちょっと、もう、何言ってるのよ!?もう、知らない。」
スウッと彼女の姿が消えた。機体の中に戻ってしまった様だ。
ま、いいさ。俺はまた、機体に100円を入れる。再び新たにゲームが始まる。
再びミリーがゲームの中で動き出す。実際に話は出来なくても、ゲームには彼女がいる。
そう、いつでも会える。
俺はまたここに来る。ゲームをやりに。いつまでも変わらぬ彼女に会いに。
おわり
2001/11/23