ゆめと うつつと まぼろしと とわの ものがたり
夢と現と幻と永久の物語

〜番外2 ヒトの形の檻〜

人形。
それはヒトの形をした玩具。
躯があり、四肢があり、顔があり…。
でも、それはヒトと違って心はありません。
心のないモノ。がらんどうなモノ。
なぜなら、それは創られたモノだから。
それが人形。ただ、ヒトの形を真似ただけのモノ。

あるところに、人形師がおりました。
彼の作る人形は素晴らしい出来栄えで、非常に人気がありました。
彼の人形はただ美しいだけではありませんでした。
本物の人間ような、細部にまで作り込まれたその造詣。
どれをとっても、並の人形師には真似できないほどでした。
そんな人形でしたから、彼の作品を手に入れようと、遠くのお大尽からの注文も多くありました。
しかし、そんな彼には1つ、悩みというか、あまり好きになれない物がありました。
それは自分の顔でした。
彼の顔は決して整った顔とは言えない…言ってしまえば、人前にはあまり見せたくない顔でした。
ですから、彼に注文に来るお大尽の召使も必ず何かしら、嫌な反応をします。
それこそ人形のようにすました顔をした召使いでも、眉をひそめたりするのです。
それでも、彼はなにより人形が好きでしたから、
彼の人形を欲しいという人のために精魂こめて人形を作り続けました。

そんなある日。彼は思いました。
もし、自分の好きな人形を自分の形に作ったら、 自分の顔の事も少しは許せるんじゃないだろうか、と。
そう思った彼はさっそく彼の顔をした人形を作ることにしました。
普段はまともに見るのも嫌になる鏡を一生懸命見て、自分の顔を再現していきます。
ついでに、背格好も自分と同じようにしました。
やがて、その人形は完成しました。
彼と全く同じ外見をした人形。
しかし、その人形を見ていても、彼はその人形が好きにはなれませんでした。
今までいろいろな人形を作ってきましたが、こんな事は初めてでした。
やはり、元々気に入らない自分の外見をしていては、 例え人形でも気に入る事が出来なかった、ということでしょうか。
と、彼はその人形を見ているうちにだんだんと…
ガッ!
気がつくと彼はその人形を殴り倒していました。
自分の顔をした人の形をしたモノが目の前にあるものですから。 これまで、少しずつ溜まってきたものもあったのでしょう。
一度箍の外れた彼はこれまでの鬱憤を晴らすかのように、その人形を罵り続けました。
「お前はなんて醜いんだ!」「人に見せられる顔ではない!」
彼はそのうち、そうして鬱憤を晴らすことを1日の日課とするようになってきました。
ですが、やがて言葉だけでは物足らなくなり、 彼は人形を殴ったり、蹴ったり、果ては体の一部を破壊してみたりするようになりました。
だんだんその行為は日に日に激しくなっていきました。
そして、とうとう人形作りの仕事もしなくなっていきました。
彼の家からは正気の沙汰とは思えないような罵声だけが聞こえてくるようになりました。
「お前は醜い!」「人間の顔じゃない!」「お前の顔は化け物のようだ!」
「お前は人間じゃない!」
「お前は私だ。だから醜い!」
「私は醜い!」

ある日彼は目を覚まし、家の中を歩いていました。
そして、彼と同じ姿をしたものを見つけました。
許し難い、自分と同じ姿をしたモノ。
彼はそれに殴りかかり、手をもぎ取りました。
すると、そのもぎ取った部分から赤い液体が噴きだしました。
他の部分ももぎ取ってみました。
すると、その部分からも赤い液体が噴き出ました。
しかし、彼には理解できませんでした。
今殴りかかったとき、ソレがこっちを見たような気がしたこと。
そして、ソレがこんな赤い液体を噴き出した事。
何一つ理解できませんでした。
試しに彼は自分の手を外してみました。
しかし、そのような液体は出てきません。
それは当然です。
なぜなら「彼」には血が通っていないのですから。
理解は出来ませんでしたが、 とりあえず彼は今外した自分の手を付け直した後、 自分と同じように「人形」の外した手足を元に戻しておく事にしました。
またいつでも壊せるように。

人形。
ヒトのカタチを模したモノ。
その真白い肌、何も映さぬ瞳。
それらはまるで、ヒトの亡骸のよう。

〜番外2 ヒトの形の檻〜 終わり

2003/06/26

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