ゆめと うつつと まぼろしと とわの ものがたり
夢と現と幻と永久の物語

〜拾 夜行遊泳〜

 私は夜の散歩が大好きだ。
 夜には、昼では味わえない空気があるから。それに夜は静かだから。
 昼間も嫌いではない。
 でもあの空に出ている大きいな太陽はいけない。アレは明るすぎる。眩しすぎる。
アレがいいものである事は分かっている。この地上がこうあるのは太陽のおかげだし。
でも、私たちにはちょっと強すぎる。眩しすぎる。だから昼間は苦手だ。
 私は夜の方が好きだ。
 淡い明るさの月が好きだ。
 それに夜の空気は澄んでいる。
夜には夜の独特の空気がある。
 言葉では説明しづらいけど、とにかく夜の方が好きだ。

 私は夜の散歩が大好きだ。
 でも、これって散歩というのかは分からない。
自分の足で歩くことも歩けど、私は専ら背中の羽で空を泳ぐから。
夜の空気の中を泳ぐのはとても気持ちいい。きっと水の中を泳ぐのも気持ちいいのだろう。 でも私は水には入らない。入ろうと思ったことはない。きっと私にとって水はキケンなんだろう。
水で生きる物が空では生きられないように、空で生きる物は水では生きられないのだろう。
だから私は水には入らない。

 人間の言う「街灯」というモノの上に止まった。
 この街灯もそうだけど、最近人間の町には夜でも明るいものが増えた。
このままでは夜も昼のような眩しい世界になってしまう。
しかもこの明かりは太陽のようにイイものではない。
こんな光が溢れたんじゃ、大好きな夜の散歩も楽しめなくなってしまう。

 私はいつものように人間の街を見下ろす。
人間たちはあくせくと歩き回っている。あんなに急いで、何をしようというんだろう?
そんなに急いでいるから、当然私のことになど気づかない。
いや、気づかないのではなく見えないのかもしれない。
 私にだって人間の友達はいる。
ううん。いた、と言った方がいいかもしれない。
人間たちがまだ子供の頃は私が見えるのだけど、 大人になるにつれ私が見えなる子が増えていき、やがて誰も私が見えなくなる。 大人になった彼らには私が話し掛けてもなにも聞こえない。
目の前に行っても私の姿は見えない。
 私は気がついた頃から一人だった。だから一人でいることには慣れている。
でも、折角仲良くなれた子供ともう話が出来なくなるのはつまらない。
 どうして見えなくなってしまうんだろう?
 よく、急いでいると周りが見えなくなることがある。 人間たちは生き急ぐあまり、周りが、私が見えなくなっちゃうんだろうか?
 つまらない。なにをそんなに急ぐ必要があるんだろう?
 すべての生き物には限られた時間がある。その時間は決して無駄に使っていいものではない。
 でも、焦った所で限りはある。なんでもやろうとするから急がなくてはならなくなる。 自分の出来る事の限界を知らないと。 あれもこれも、なんて言っていると結局なにも出来ずに終わってしまう。
 その点私はそんなにやるべき事もない。だからこうしてノンビリ散歩を楽しむ。

「おーい、そこのちっちゃいヒトー!」
 下から声がする。私を呼んでいるのかな?
 下を見ると2人の男の子と女の子がこっちを見ている。
「こんばんわー。」
2人の元に下りてみる。
「この街であなたみたいな人に会うのは久しぶりだわ。」
「いつごろからこの街にいるんですか?」
「ねぇねぇ、名前は?私はマナ。で、こっちが深弥伽。」
 女の子の方―マナという名前らしい―が手を広げてくれたので、 そこに降り立つと矢継ぎ早に質問された。
こうして話をするのは久しぶりだったのでとても楽しい。
「いつからいるのか、なんて忘れてしまったわ。名前も忘れちゃった。」
「え?どうして?」
「だって、ずっと生きてて私の名前を呼んでくれるヒトはしばらくいなかったもの。」
「そっか、寂しかったんだ…。」
「ううん、一人だったときの方が長いから。寂しいなんてことは感じなかったよ」
 ひとしきり話をしたあと、私はこの2人が普通の人間の子供じゃないのかもしれないと思った。
「ねえ。」
「ん、なあに?」
「あなたたちって、もしかして…」
 ビュウゥゥゥ…。
 突然の強風が私の声をかき消す。
 それは、言葉にしてはいけない言葉だったから。
それだけで十分だ。彼女たちは…。

「さて、そろそろ行かないと。」
「え、もう?」
 深弥伽がそう言った。
「あんまり話してるとこのヒトも迷惑だよ。」
「私は久しぶりにこんなに話ができたんだもん、迷惑なんてことはこれっぽっちもないよ。」
「でも、もう行かないと。」
「そっか。」
 それじゃ、と手を振る二人。
 別れ際にマナがこう言った。
「また会いましょうね。」
 うん。この街、彼女たちがいるこの街にいるかぎり、彼女たちとはまた会える。
 そして、私も街灯の上からまた飛び立った。
 今日は月がとても綺麗だ。
 月を背に夜の風を身体全体で感じながら空を飛ぶ。
 彼女たちがいるこの街が少しだけ、好きになれた気がした。

これが彼女たちとの一番最初の出会い。

〜拾 夜行遊泳〜 終わり

2003/09/26

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