〜弐 古いお店と古道具と〜
あらゆる物には歴史がある。時の流れにも歴史はある。
そしてその物の経た時間が永ければ永いほど歴史もまた永くなる。
その歴史は決して同じ物は無い。物によって歴史は違うから。例え寸分たがわぬ物があっても中身の質、
その物が生きた時間の中で得た物は、全く違う。そして、ヒトの魂も同じ物は二つと無い。
カラン、カラン…。
ドアを開けると、心地良いベルの音が来訪客を迎える。
「…いらっしゃい。」
心地良いベルとは対照的に、ちょっと偏屈そうで頑固そうな顔のじいさんが揺りイスから立ち、
西洋煙管(パイプ)を吹かしながら言った。この老人がこの店の店主だ。
「こんにちはー。また来ました。」
「なんじゃ、また来おったか、小僧共め。」
見た目通り口も悪い。
「もう、私は女だから小僧じゃないわよ。」
しかし悪い嫌な人ではない。だから二人もよく来るのだ。
「はい、このお店の品物とか見せてもらうだけで飽きませんから。」
「勝手にせい。じゃが、もし壊したりなぞしたら…」
「『二度とこの店に来る事まかりならん!』でしょ?もう、何度も聞いたから覚えちゃった。」
「ふん、解っとるんならええわい。」
そう言うと店主はドカッとイスに腰掛け、またパイプを吹かし始めた。
古道具達、それらはそれぞれに個々が体験した歴史を語る。そんな古道具達のかもし出す雰囲気は独特のもので、二人は大好きだった。
そんな雰囲気に惹かれてやって来るのは二人だけではなかった。
「あなたはこのオルゴールが気に入ったの?」
ふたを開けようにも、その体では到底無理そうなその小さな者のためにマナはオルゴールのふたを開けた。
オルゴールからは優しく、美しい音色が流れ出す。
心地よい光差すフロアに流れる心地よい旋律。それはヒトの生み出したものと自然が生み出したものとのハーモニー。
全くの相反するモノの織り成すハーモニー。それは不思議ときれいに混ざり合う。
ピタッと破片と破片が合わさりあう。そんな感じがした。
それはオルゴールそのものにも似ている。違う歯車と歯車がかみ合いほかの歯車を回し、
いくつかの歯車がドラムを回し、旋律を奏でる。例え形は同じでも、役目は違い、その役目をそれぞれが果たす事で一つが生まれる。
「あれ?音がしなくなっちゃったわよ?」
「横の螺子を回すといいんだよ。…ほら。」
止まってしまったオルゴールの螺子を回すとオルゴールは再び音色を生み出し始めた。再び流れ出す美しきハーモニー。
そして、それはヒトとヒトとの交わりにも似ている。全くの見知らぬのヒトとヒトとが出会い、
まるで歯車のようにかみ合ったヒトとヒトはハーモニーを紡ぎ出す。しかし…。
「あ、また止まっちゃったね。」
「この螺子を回すのよね。…あ、あれ?回らないわよ…。」
「わ、ま、マナ!回す方向が逆!」
「え?あら。えっと、こっちに回せばいいのね。…うん、うまく回ったわ。」
「気をつけてよ。そんなに無理に回そうとしたら壊れちゃうよ…。」
しかし、かみ合わない歯車は何も生み出さない。それどころか、やがてそこから崩壊していくこともある。
例え、ほんの些細な事からでも。例え、先までかみ合っていた歯車でも。
ふとした事で壊れゆくハーモニー。それもまた、ヒトの交わりに似ている…。
「なんじゃ、小僧共、まだおったのか?」
薄暗くなってきた店内で店主は未だにオルゴールの傍にいた二人を見かけた。
「ほれ、もう店じまいじゃ。とっとと帰るんじゃ。」
「はい、どうもありがとうございました。」
「また来るわね。」
老人はフンと返事をすると店を閉め始めた。
さっきまで二人が聞いていたオルゴールはしばらく音色を奏でていたが、やがてそれも止まる。
あらゆるものには歴史がある。その歴史は美しいハーモニーばかりではない。ハーモニーが壊れてしまう事もあるだろう。
しかしヒトの歴史は巻き直す事はできない。そのかわり、新たな美しいハーモニーを奏でようとする事はできる。
だからヒトは求め合うのだろう、美しいハーモニーを奏でるために。
〜弐 古いお店と古道具と〜 終わり
2001/11/09