ゆめと うつつと まぼろしと とわの ものがたり
夢と現と幻と永久の物語

〜四 木枯し〜

 木々の葉たちが茶色く色づき、その葉達も徐々に木を離れはじめる頃、 強く冷たい風が吹く。この風が吹くといよいよ季節も冬の装いを見せ始める。 この頃に吹く風のことを「木枯し」と呼ぶ。たしかに木の枯れるこの時期吹くという風には ぴったりの名前だ。それとも、この風が木を枯らすのか…。 木枯しという名前の意味も、「木を枯らす」と言う意味らしい。その強い風も、 木に留まる葉を全て散らせよと吹いているかのようだ。
 風が吹くたびに木々は枝を揺らし、揺れた枝は、葉を揺らし、揺れる葉はやがて、 枝を離れ風に乗り、いずこともなく飛び去って行く。 束縛から逃れた葉は、風ともにどこへともなく去りゆく。

「あ〜〜、さむーいー。」
「だから、もう少し着た方がいいんじゃないのって聞いたじゃない。」
「家の中は暖かかったからいいと思ったのに〜。」
「中と外とじゃ全然違うよ。」
「もう、なんでこんなに寒いの!?」
かなり不条理な駄々をこねるマナと深弥伽は街を歩いていた。行き交う人は冬支度を始め、 深弥伽も、外套を着ている。マナは薄手の服ではないものの、あまり暖かそうでない服を着ている。 見ているこっちが寒くなるよ…。深弥伽は思わず口に出してしまいそうだったが、そこは堪えた。
 何だかんだ言いつつも、二人は公園にやってきた。
 ザアァァ…。
風が吹くたびに、木が、枝が揺れ、木の葉も、地面の落ち葉も風と共に舞い、どこかへ飛んでいく。
「ここの木もすっかり葉っぱが落ちちゃったわね。」
「もう冬だからね。みんな冬支度し始めてるんだよ。」
「ふーん、どうせ、私は全然冬支度なんてしてないわよーだ。」
「別にそんなつもりで言ったんじゃ…。」
 ザアァァ…。
そんな葉に紛れるかのように、一人に男が木の傍に立っていた。木を見上げて何かをしているかのようだ。
「ん?あの人、何してるんだろ?」
「え?さあ、なんだろう。」
黒い背広を着た紳士と言った感じの男は木に向かって何かをしているようだ。
「よし、行ってみよう。」
「邪魔しちゃ悪いよ…。」
「話し掛けるくらい、邪魔にはならないわよ。」
そう言いながら、マナはすでにその男の方へと駆け出していた。

「こんにちは、何してるんですか?」
「あ、すみません、お邪魔でしたか?」
 マナの呼びかけにちょっと驚いたような感じで、男は振り向いた。そんな男の反応に心配そうに深弥伽は尋ねた。
「君たちは・・・そうか。いやいや、邪魔なんてことは無いよ。」
 何かを確認するように初めは考えながら話をしていたその男は、やがて笑いながらマナに答えた。
「私はいま、彼らに冬支度をすすめているんだよ。」
「彼らって、この樹ですか?」
「そう、少しくらい寒くなった程度ではなかなか冬支度を始めないんだ。」
「なんだかマナみたい。」
「深弥伽。何か言った??」
「な、何も言ってないよ。」
「ははは、元気なのはいい事だ。
 花たちはきちんと季節を考えて自分で冬支度を始めるんだ。だが、木たちは違うんだよ。 冬はこれまで以上に栄養が必要になる。それに春にはまた、新しい花を咲かせなくてはならない。」
男はそういって傍の樹を見上げた。
「なのに葉っぱに栄養を送っていては、木自身が冬を越えられなくなるし、春に満足に花を咲かせられなくなる。
 だから、次の新しい季節に芽吹く、新しい命のために冬は葉を落としゆっくり休むように呼びかけているんだ。」
 といって、男は再び二人に向き直った。
「じゃあ、大切なお仕事なんですね。」
「いやいや、僕がしているのはただ、呼びかけているだけ。本当に偉いのは彼らの生命力だよ。
 それと、葉を散らす手伝いをする木枯し達かな。」
「木枯し?」
「この時期よく吹くているだろ?彼らも同業者だよ。」
「でも、あなたがいなかったら春に満開の花を見る事ができないかも知れないわ。」
「そういってくれると嬉しいね。」

 男と別れ、二人は公園を後にした。
「ねえ、深弥伽。私、冬って大嫌いだった。だって、寒いし、花は枯れて寂しくなるし。」
並んで、空を仰ぎながら、マナは呟くように言った。
「でもね、さっきのあの人の話聞いてて、少しだけ冬が好きになったわ。」
「どうして?」
「だって、冬にゆっくり休むから春にあんなにきれいな花を咲かせられるって事なのよね。 そう考えると、冬もチョットはいいかなって思うの。」
「そうだね。欠けてもいい季節なんて一つもないんだし、冬には冬の役目がきちんとあるんだよ。」
「そうね。」
 そう言うと、マナはまた駆け出した。
「ねえ、深弥伽〜。」
少し離れたところで振り返りマナは呼びかけた。
「冬のコートを奥から出さなくちゃ。手伝ってくれるわよね〜?」
「は〜い、手伝うよ。」

 高い空に木枯しに舞う木の葉たちが吸い込まれていく。
 冬は決して終わりの季節ではない。終わりがあり、始まりもまたある。 そんな相反するものがやってくる季節。

〜四 木枯し〜 終わり

2001/12/17

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