人は常に幸福であるとは限らない

人は常に幸福であるとは限らない
願わくば…
〜「鐘は高く澄み渡りて」より〜


ふと、空を仰ぎ見る。
空ははあの時と同じ、そしていつもと同じ…。

「ひひっ、確かに…。」
太った商人が厭らしい笑みとともに、女の首を確認する。
「流石は暗殺組織の中でも名うてのアサシン。素晴らしい仕事ですね。」
そう言って商人は報酬を渡してきた。
プロンテラでも悪名高い闇商人カルゴダ。 闇の世界に生きる俺も何度か名前は聞いたことがあった。
コイツが絡んでいるという事は、あの女が濡れ衣だったのだろうと予想がついた。
だが賞金首であることには変わりは無かった。それにあの女は死を望んだ。
そして、その濡れ衣を着せたのがコイツであることも、予想がついた。
「また賞金首の話でもでたら、そのときもよろしくお願いしますよ。ヒヒッ。」
あの女がなぜこんな事に巻き込まれたのか、知る余地もない。 知ろうともも思わない。
同情とかそういった感情は微塵も無い。
ただ、依頼だけは完遂しようとは思った。
「依頼を受けている。」
「は?」
ぽつりと洩らした俺の一言に、ヤツは素っ頓狂な声を上げる。
「報酬もすでに貰っている。」
依頼。それはあの女の護衛。
あの女に害なすものを斃すこと。
俺はカタールを手にした腕を振り上げる。
「・・・ヒィ!」
恐怖に染まる、見開かれた目。
死にゆく者が例外なく浮かべる表情。恐怖。
ただ、あの女だけは恐怖の貌ではなかったな、とふと思い出す。

ボチャン…。
プロンテラの北東、モンクギルド。
人も少なく、静かな場所だ。そういえばアルデバランもそうだった。
依頼。あの女の護衛。あの女の望む場所まで連れて行くこと。
あの女が最期に望んだのはこの場所だった。 だから俺は女の首をこの海に沈めた。
―私は罪を犯しました…。
罪深いのは俺とて同じ事。
…いや、おそらくあの女は罪など犯してはいない。罪深きはあの商人と俺。
だが、俺は生きる。この罪を背負い。
これが俺の道だから。あの女が望んだ事だから。
どうも感傷的になってしまったようだ。らしくない…。

ふと空を仰ぎ見る。
空はあの時と同じ、そしていつもと同じ、晴れやかでまっすぐに澄みきった空だった。
願わくば次逢う時、自分の道を歩いていけるように。


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「鐘は高く澄み渡りて」本編の後日談と言った感じで書いてみました。
ちなみに、「鐘高」はクロウズド/アンダーグウンドさん の作品です。「鐘高」は、ラグナロクを元にしたお話でして、 かなり前から探してたんですが、同人ショップではなかなか見つからず…。 偶然GMLさん(跡地・笑)で通販やってるの見たときは迷わず注文しました(笑)。
全編救われない暗い話なんですけど、 ここで少しくらいは救われればなぁ、と思って書いてみました。 書き出しと終わりが、前に書いた「流れ行くとある1日の話」と似たような感じになっちゃいましたが、 書き出しについてはカルゴダのセリフから始めたくなかったからです(笑)。
元々、話の後日談とか考えるの好きなんですよ。 はっ!それはよーするに、元から同人にのめりこむ素質があったって事!?(爆)。

2004/02/15

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