割烹着のホウキちゃん

割烹着のホウキちゃん
雨の追憶
〜「月姫」より〜


シトシトシトシト…。
窓の外には雨が降っている。
静かな雨。
雨は好きではない。
暗い空、暗い雰囲気。
見ていると、こちらまで気が滅入ってくる。
ただでさえ暗い部屋の中にいるのに。
雨を見ていると、こちらまでつられて泣きそうになる。
泣いたら、そこで終わってしまう。
全てを背負うと決めたのに。挫けてしまう。

それに、雨が降っていると外を誰も歩かなくなる。
あの男の子が外に出てこなくなる。

背後に人の気配を感じる。
振り返る必要はない。誰かは分かっている。
だから私はそのまま窓の外を見続けていた。
「…泣いて、いるのか?」
あの男が声をかけてくる。
いつもの様子とは違う。今は落ち着いているようだ。
「…いいえ…。正逆…。」
後ろを振り返ることなく、私はポツリと漏らした。
あんな男の問いかけなど、無視してもかまわないのに。
ほんの気まぐれ。決してあの男を許したわけではない。
バタッ!ガタン!
「…グァッ…ハァ…ハァ……。」
どうやらいつもの発作のようだ。
あの男の圧倒的な力と大きな体がすぐ後ろに迫っている。
この後はいつものように…。

シトシトシトシト…。
今日も雨が降っている。
今日もあの男の子は見られない。
「…泣いて、いるのか。」
あの男の問いかけが何故か頭の中で繰り返される。
私は泣かない。泣く事はない。
泣きそうになる余計な感情など、みんな要らない。
人形に感情など必要ないのだから。
なにも痛くない。なにも悲しくない。なにも辛くない。
私は、この暗い部屋に閉じ込められた私の肉体のように、全ての感情を閉じ込める。
空には低く重い灰色の雲。明るい青空は灰色の雲に隠されている。
あの空のように、私の心も奥底に隠してしまえば、何も感じる事はなくなるだろう。


背後に人の気配を感じる。
「…姉さん?」
「え?」
振り返ると、そこに立っていたのは妹の翡翠ちゃん。
メイド服に身を包みこちらを見ている。
そして私が立っているのは、屋敷の廊下。
「あ、あら翡翠ちゃん。どうしたの?」
「姉さんこそ、どうしたんですか?…ぼーっとしていたようでしたけど…。」
「うーん、なんだか雨に見とれてたみたい。」
「雨…ですか。」
ずいぶん昔の事を思い出していた。
朝方はあんなに晴れ間が広がっていたのに、いつのまにか雲が広がり、 気がつくと雨が降りだしていた。
私はその窓の外の雨に見とれていた。
いや、正確には雨の降る外の景色に見とれいてた。
昔の記憶と共に。

ふと、あることを思い出す。
そして、あることを思いつく。
思いついたからには早速行かなくては。じっとしていられない。
「翡翠ちゃん。私、お買い物に行ってこなくちゃいけなくなっちゃった。」
「え、でも、こんな雨ですよ?」
「うーん、どうしてもお夕食に欲しい材料があるから今行きたいの。」
「…はい、分かりました。」
「じゃ、お留守番お願いね。」
「はい。姉さんこそ気をつけて。」

雨は全てを洗い流してくれる。
汚れた空気も。不要な物も。
でも、この雨でもあの、かつての記憶は洗い流せない。
雨は全てを癒してくれる。
草木を潤し、大地の恵み、癒しとなる。
そして、こんな穢れた躯の私でも癒してくれる。
なぜなら今私は、心の中でも笑っている。
この雨の中、あの人に会うために歩いていると思うと嬉しくなるから。
かつては雨の日が嫌だった。
あの人が見れなくなるから。
でも、今は違う。
暗い部屋に閉じ込められていた私は、もういない。
暗い雲の奥底に心を隠し閉じ込めていた私も、もういない。
まだ、この雲が晴れる事はないだろうけど。
でも、止まない雨はない。晴れない雲はない。
それに、例え雨が降っていても、私はあの人に会いに行ける。
朝、晴れているからと傘を持たずに元気に飛び出していった、あの人のもとに。
きっと今ごろ、どこかの軒先で困った顔をしているだろう、あの人のもとに。


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月姫SS第二弾。今回は琥珀さんが主役です。
今回のSSを書いたのは別のサイトにあった琥珀さんのイラストが元です。 雨の中、蛇ノ目傘をさし、たたずむ琥珀さん。そちらのサイトの解説では明るいお話だったんですが、 そのイラストを見たとき、私の中では暗い話もアリかな、と思いまして。 で、今回のSSとなったわけです。もっとも、暗い話で終わるのは私的に許せなかったので、 ラストは解説の一部を引用させていただいて明るく締めました。
ちなみに、前半にある、男(槙久)と琥珀さんの会話(?)、どっかで見覚えある、とか思いません? 「るろうに剣心」十六巻にある少年宗次郎と志々雄の会話のパクリです(笑)。 というのも、さきほどのサイトさん内部設定では琥珀さんは天剣の使い手なのです (もっとも志々雄はシキですが)。そんなわけでこんな会話もバッチリ合っちゃうんです。 ってかこの会話をさせたかったのも、今回のSSを書いた理由のひとつです(笑)。 でも、槙久が志々雄なのはちょっと許せないなぁ…(苦笑)。

雨は天の流す涙。
この雨は、彼女の奥底に封印された涙を代弁するのか。

そんなフレーズで始まったこのSSですが、ちょうど1年前の「夢と現と〜」の第七話がなかったら ここまで発展しなかったかも。

2003/07/20

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