・第一話
どこの学校にも怪談めいた話はあると思う。
曰く、夜中に生物室の標本や校庭の銅像、校内に張ってあるような偉人の肖像画がなど動き出す。
曰く、校内の鏡をある時間に見ると、本来見えないはずの物が見える。
曰く、空き教室で本来いないはずの人物がいた。
などなど。挙げ始めれば、こういった話は限がないだろう。
これもそういった話のひとつだと思っていた。
僕の学校の美術室にはある絵が飾られている。僕がここに入学する前からある絵らしくて、
当時の美術教師か、美術部の生徒か、誰が描いたかよく分からないのだけど、とにかく綺麗な絵だ。
その絵にも怪談めいた奇妙な噂話があった。
曰く、この絵の前で願いを言うとその願いが叶う。
「願いの扉」なんてタイトルのついている絵だけに、この絵に願掛けをする生徒もいるのだろう。
と、ここまでならただの噂話で、怪談にまではならない。
この話には続きがあって、その絵で願いが叶った後、願いをかなえた者は死んでしまうのだという。
あの絵で願いをかなえたという話は聞かないが、突然事故かなにかで死んでしまう生徒はごくたまにいる。
そんなときは決まって「あの絵で願いを叶えたからだ」なんて噂が出回る。
そしてそんな噂が消えることはない。それは、ひょっとしたら、
誰かが本当に願いをかなえたために死んでしまっているのかもしれない。
ただの噂とタカをくくって興味本位から願いをかける人がいるのか。
それとも、そんな噂にすがってまでも願いを叶えたいと思う人がいるのか…。
例えその後に死という結末が待っていると分かっていても、
一時でも願いの叶った世界を味わえるのなら…。
自己紹介が遅れたけど、僕の名前は北山幸喜。ごく普通の高校2年生だ。
この時期の高校生なら大体は、好きな子の一人や二人いるだろう。と前置きをして話を進めさせていただく。
そう、僕にも気になる子がいる。同じクラスの香川響子さん。
今年同じクラスになってから気になっている。なんとか仲良くなるトコから始めたいのだけど、
なかなかチャンスがない。…まあ確かに、僕がなかなか行動しないというのもあるにはあるんだけど、
それにも原因がひとつある。香川さんのそばにはいつも、彼女の友人がベッタリとくっついているのだ。
副島智美さん。彼女がいつも香川さんのそばにいるために、僕にはなかなかチャンスがないのだ。
そんな風にいつも一緒にいる二人だから、妙な噂が周囲では立っている。
当然「二人はデキているんじゃないか」という噂だ。正確には、
副島さんの方が強引に香川さんを引き込んでいるといった内容だ。
僕としてはなんとも無視していられない噂だ。それに噂とは言っても、
やたら校内の情報に詳しい宮下の情報だ。コイツの情報はかなり信憑性がある。
そしてもうひとつ。彼女らにはもうひとつ噂がある。
「副島は例の絵で香川を手に入れたらしい」という噂だ。例の絵とはあの扉の絵。
もしこれらの噂が本当なら、その絵で願いを叶えた副島さんは近いうちに…。
そんなある日。僕はそれらの噂の内のひとつを実際に見ることになる。
部活の後の片付けで帰りが遅くなっていた僕は、一人クラブハウスの前を歩いていた。
ほとんど日の落ちた、校舎から離れたクラブハウスは人気もなく、
さっさと立ち去りたいような雰囲気になっていた。
と、そのとき、僕は誰の声を聞いた気がして立ち止まった。しかし回りには誰もいな。
気のせいかと思ったけど、僕はもう少し回りを見回してみた。
なぜなら、その声は僕の名前を呼んだ気がしたからだ。
ちょうど目の前にはほんの少し扉の開いた女子バドミントン部の部室がある。
と、今度はさっきよりはっきりと声が聞こえた。どうやら声はそこからのようだ。
僕は一体どんな内容の会話がされているのか知りたくなった。
今ならその少し開いた扉の隙間から中を見ることもできる。後ろめたさはあったけど、
周りに人がいなかった事と、興味が勝って僕は扉に顔を近づけた。
そこには僕の予想だにしなかった光景が広がっていた。部室の中には二人の女子生徒がいた。
しかしその二人の、普段なら衣服で覆われているはずのほとんどの部分が露わになっていた。
一人がもう一人の女子生徒を後ろから抱きしめるような形で床に座っている。
そんな光景を前に僕の後ろめたさはさらに大きくなるが、男としての性がもう少し、と目を離せずにいた。
「ふふっ、ダメよ…。」
突然の声に僕はハッとなったが、別に僕にかけられた声ではなかったようだ。
と、よくみればその女子生徒は副島さんではないか。そして、一緒にいるのはうつむいてはいるが、
間違いなく香川さん。あの、二人はできているという噂は本当だったという事か。
しかしまだかこんな形で噂の真相を知ることになるとは…。
「ダメよ、響子。あなたは私のもの…。」
中の二人はこちらに気づいた様子もなく話をしている。しかしずいぶんとスゴイ発言だ。
「ましてや…」
「…イヤ…。」
荒い吐息交じりの声でなんとか抵抗しようとしている香川さんだが、
その抵抗も副島さんの前では無駄なようだ。
「ましてや、北山なんかには渡さないわよ…。」
「え?」
副島さんは今確かに僕の名前を呼んだ。しかしなぜ?
とそんなことを考えるまもなく副島さんがふっとこちらを向いた。
どうやら今の声が聞こえてしまったようだ。彼女と目が合ったような気がした僕は、
その驚きでようやくこの場から逃げ出す考えに至り、すぐに立ち去った。
数日後、朝登校してきた僕は机の中に入っている手紙を見つけた。
「放課後、屋上前の扉に来てください 香川」手紙にはこう書かれていた。
あのクラブハウスでの出来事を目撃して数日。別段彼女らに変化は無かった。
僕としても、もしかしたら見つかっていないのかもしれないし、もし覗いてたのが僕だとバレていたとしても、
その事を言及されるような事態にはしたくなかったので、その話はしないようにしていた。
まあ、まさか二人に面と向かってあの日の事を聞けるはずもなかったのだけど。
そんな中に、香川さんからの手紙。一体どんな話をさせられるのだろうか。
ふと教室を見回して気がついた。今日はまだ香川さんが登校してきていなかった。
つづく
2005/03/28